復元されたヴァイキングの外観/スタヴァンゲル考古学博物館
女性は長髪を後ろで一つに束ね、男性は肩まで伸ばした無造作なミディアムヘアと口ひげ・あごひげをたくわえている
出典:Wolfmann(Author)/Wikimedia Commons CC BY‑SA 4.0より
「ヴァイキング」と聞くと、長髪に三つ編み、頭の片側を刈り上げて、なんだかやたらワイルドなヘアスタイルを思い浮かべる人、多いんじゃないでしょうか?ゲームやドラマでも、屈強な戦士たちが髪を逆立てたり編み込んだりしていて、あれが“ヴァイキングっぽさ”の象徴みたいになっていますよね。
でもそれ、どこまでが本当で、どこまでが創作なんでしょうか?
実は考古学や同時代の記録を掘り起こしてみると、「ヴァイキングの髪型」には、現代人が思っている以上に多様性があったようなんです。この記事では、そんなステレオタイプとリアルのギャップをわかりやすく整理しながら、ヴァイキングの“ヘアスタイル史”をひも解いていきます。
フィクション作品などで定番になっている「ヴァイキングの髪型」をまずはおさらいしておきましょう。
近年の海外ドラマでよく見るスタイルがこれ。頭頂部の髪は長く残して後ろへ流し、両サイドをきっちり刈り上げたツーブロック。戦闘時に視界を妨げず、しかも強そうに見えるため、視覚的インパクトは抜群です。
男性も女性も、長い髪を細かく編み込んだスタイルはフィクションでの定番。とくに『ヴァイキング〜海の覇者たち〜』などでは、戦士たちが複雑な編み込みやビーズをあしらった髪型で登場します。強さと装飾性の両立がポイント。
中世の“野蛮な北方の民”としてのイメージから、ただ髪を伸ばしっぱなしのようなスタイルも根強いです。風になびく金髪、戦場で乱れた髪──そんな視覚的な荒々しさが、ヴァイキング像を定着させたとも言えます。
では、実際にヴァイキングたちはどんな髪型をしていたのか?考古資料や文献から、少しずつ実像が見えてきます。
ヴァイキングの墓からは、意外にも大量の櫛や毛抜き、耳かきなどのグルーミング用品が発見されています。つまり、彼らは「清潔さ」や「整髪」にかなり気を遣っていたらしいのです。乱れ髪というより、“整えていた長髪”がリアルだったのかもしれません。
イングランドの修道士たちが残した記録では、ヴァイキングは「髪を梳かし、香油を使い、服装にも気を遣う」といった描写があります。これは逆に、修道士たちが嫉妬を交えて書いたとも言われ、ヴァイキングが“モテる”印象だったことを物語っています。
一部のレリーフや織物の図像からは、肩まで伸びた整った髪型や、短髪にヒゲをたくわえたスタイルも確認されています。つまり一律ではなく、個人差・地域差・時代差があったと見て間違いなさそうです。
髪型は、単なるファッションではなく、社会的・文化的な意味を帯びていた可能性があります。
髪の長さや整え方は、戦士か農民か、女性か子どもか、あるいは支配層かどうかなど、立場を示す記号だったかもしれません。とくにヒゲとのバランスで社会的役割が読み取れるケースもあったようです。
髪を切る・編むといった行為には、宗教的な意味合いが付随していた可能性もあります。たとえば「戦士になるときに髪を切る」儀式や、「神に仕える者として髪を断つ」など、用途はさまざまだったようです。
周囲のキリスト教徒たちと外見で差をつけるという意味でも、ヴァイキングたちは髪型を通して“自分たちらしさ”をアピールしていたのかもしれません。異文化に囲まれた中での民族的自己主張だった可能性も考えられます。
つまり、ヴァイキングの髪型って、ただの“かっこよさ”じゃなかったんですね。ステレオタイプの裏にあった、実は几帳面で文化的な一面──そのギャップこそが面白いのです。